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約束の冬(上)(下) / 宮本輝(文藝春秋)
個人的な評価 (上)☆☆☆、(下)☆☆☆
その家の完成と同時期に父が亡くなった。
以後10年間住む者のなかった家に、留美子は母とともに戻ってきた。
税理士を目指し、努力しつづけてきた10年という歳月。
妻子ある男との恋に消耗した時間だったが、32歳になった留美子の元に、
10年前手渡されたものの忘れ去っていた、見知らぬ少年からのラブレターが再現した。
「10年後の12月5日、蜘蛛が空を飛ぶ場所であなたにプロポーズします」。
甘すぎないロマンチシズムが全編にただよう、著者渾身の長編小説。
(感想)
上下巻まとめての感想になります。
まず最初に10年前のラブレターを気持ち悪いと思ってしまったのと、
偶然が重なりすぎる点に違和感を覚えてしまい、
他の宮本輝作品ほどハマれませんでした。
けど、それぞれの人生に大切な「約束」があり、
その約束を守ろうと謙虚に生きる姿には胸を打たれます。
質のいい木材で作る家具・葉巻・高級和食店・・・
贅沢な趣味・時間の使い方が描かれているのもこの作品の肝。
人間関係にしても、趣味や物にしても、
様々な経験を経た来た大人でないとわからない味わいや深みってある。
その趣のようなものを、これらの描写を散りばめることでうまく表現してあります。
あとがきに「大人の幼児化」について書かれていますが、
たしかにそれは幼稚な大人の極みともいえる私でも感じてること。
そんななか、心の在り方であったり、品位であったり、
大人のあるべき姿を見せてくれた作品だったと思います。