隣り近所のココロ・読書編

本の虫・ともみの読書記録です。
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# ワクチンX
評価:
桂 望実
実業之日本社
¥ 1,728
(2015-09-04)

JUGEMテーマ:小説全般

 ワクチンX / 桂望実(実業之日本社)

 評価 ☆☆☆


仕事の成功、円満な家庭―ただ、幸せになりたいだけだった。
加藤翔子は、20年前にワクチン製造会社を起こし、会社は大きな成長を遂げた。
ブリッジが製造する“ワクチン”は
「人生を変えたい」と願う人間にとって必需品だったが、
ある日突然、原材料が死に始める。原因は不明。
ワクチンの効果は20年で切れるため、
このままだと接種者がパニックに陥る可能性がある。
だれよりもそれを恐れたのは、ワクチン接種第一号である翔子だった…。
成功とは何か、幸福とは何か価値観をゆさぶる感動作。



(感想)

ワクチンをめぐるサイエンスミステリーかと思いきや、
作品のテーマは思わぬ方向へ・・・。
「幸福とは何か」「これからの人生をどう生きたいか」を考えさせられる展開に、
スリリングなものを求めていた人は肩透かしを喰らうかもしれません。
後半の数十ページは私自身の人生まで考えさせられ、
特に記者会見の日の登場人物それぞれの言葉には胸が熱くなるような思いでした。
でも、エピローグはきれいにまとめすぎかな?
エピローグはなくてもよかったかもしれません。

「発想力」「工夫力」「配慮力」「強調力」「落ち着き」「活力」
「朝鮮力」「機動力」「応用力」「粘り強さ」「柔軟性」「責任感」
「感受性」「優しさ」「瞬発力」「心の強さ」「自己肯定力」
「鈍感力」「冷静力」「決断力」・・・・
この20種類のワクチンの中から自分ならどれを入れよう?
読者なら誰しもが考えることでしょうw
うーん、私は「柔軟性」「心の強さ」「自己肯定力」かなぁ。
| comments(0) | trackbacks(0) | 15:08 | category:    桂望実 |
# 教団X
評価:
中村 文則
集英社
¥ 1,944
(2014-12-15)

JUGEMテーマ:小説全般

 教団X / 中村文則(集英社)

 評価 ☆☆


自分の元から去った女性は、公安から身を隠すカルト教団の中へ消えた。
絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、
やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。
神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。



(感想)

私が信頼するオードリー・若林とピース・又吉が絶賛している本なので、
これは間違いない!と思って読んだのですが、私にはまったくダメでした。
ネット上のレビューを読んでも賛否が大きく分かれる作品のようです。

2つの教団が出てきますが、
どちらにもそこまで人を狂信させるようなものを感じず「なぜ?」という疑問が残ります。
とにかく登場人物たちの感情が読み取れないんですよね。
中でも、さんざんヤリまくった末に、今、教団の内部にいる楢崎が
「女性があとで後悔をするようなセックスを、男はするべきじゃない」だなんてww
まったくどの口が言うのか、お前が言うなよ!と憤りを超えて呆れてしまったし、
んなこと言ってたくせに結局はヤッてるし。
やたらと性描写が多く、
そのすべてが女性が体だけの存在としてしか扱われない心のない行為でしかなかったので読んでいて不快です。

だけど唯一、心に強く響いたのは立花涼子が楢崎に対して、
「あなたは、私がつかむことのできなかった、もう一つの運命だったの」というシーン。
普通の女としての生き方、幸せ・・・
彼女にもそんな一面もあったということがこの一言に集約されている気がして、
同じ女としてここは切なかった。

教祖が量子力学や脳科学などを交えた説法をする件はまるでちんぷんかんぷんで
私の頭ではついていけません。
そのへんはすっ飛ばして読んでしまいましたが、
その後を読む上で飛ばしてもさほど影響はありませんでした。

自分が楽しめなかったから言うわけではないけれど、
これは間違いなく大衆にウケる類いの作品ではありません。
この作品、お好きな方もいると思いますが、
くれぐれも人に勧めることなどないように・・・。
| comments(0) | trackbacks(0) | 15:55 | category:    中村文則 |
# 琥珀のまたたき
評価:
小川 洋子
講談社
¥ 1,620
(2015-09-10)

JUGEMテーマ:小説全般

 琥珀のまたたき / 小川洋子(講談社)

 評価 ☆☆☆☆


妹を亡くした三きょうだいは、ママと一緒にパパが残した古い別荘に移り住む。
そこで彼らはオパール・琥珀・瑪瑙という新しい名前を手に入れた。
閉ざされた家のなか、三人だけで独自に編み出した遊びに興じるうち、
琥珀の左目にある異変が生じる。
それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけるのだが…。



(感想)

面白いとか面白くない以前に「味わう」小説だなという印象です。

言ってしまえば「母親によって監禁されていた姉弟たちのお話」なんです。
でも、小川洋子さん独特の世界観にかかれば、
そんな状況も静謐な出来事かのように描かれてしまう。
美しく、他の作家には決してマネのできない「味」「品」そして「毒」・・・。
読者をたまらなく酔わせます。

彼らは閉じ込められることになんの不満も不安も抱いていなかった。
それどころか、図鑑と己の想像力でイマジネーションの翼を広げ、
どこまでもどこまでも広い世界を伸び伸びと冒険していた。
だから読者はこのお話のはらむ「狂気」をついつい忘れがちになる。
それがすごい。

最終的に監禁生活は終わることになるのだけど、
どのような経緯でそうなったのかがまったく描かれていないのがミソ。
想像力を刺激するし、心にいつまでもザワッとしたものが残ります。
いい意味で「読後の後味の悪い作品」でもありました。
| comments(0) | trackbacks(0) | 14:13 | category:    小川洋子 |
# ウォーク・イン・クローゼット」
JUGEMテーマ:小説全般

 ウォーク・イン・クローゼット / 綿矢りさ(講談社)

 評価 ☆☆☆


28歳OL、彼氏なし。
素敵な服で武装して、欲しいものを手に入れたい!
女同士、男と女の微妙な友情と人間関係を描く、
コミカルでせつなくて少しブラックな魅力全開の2年ぶり最新小説集。




(感想)

表題作の「ウォーク・イン・クローゼット」と「いなか、の、すとーかー」の中編2本。

「ウォーク・イン・クローゼット」は私が彼らより上の世代だからなのか、
なんとなくほほえましい気持ちで読めました。
好みでない服で着飾って自分を武装してまでも素敵な彼氏をゲットしたい!!・・・
というタイプの女に好感を持つ女性は少ないと思うけど
(たとえ自分がその種類の女であっても)、
休日にその武装用の洋服達を大事に丁寧に洗濯してケアするのが至福の喜びだという主人公はたまらなく愛おしい。
これが彼女の美徳であり、人間性が出ているから愛せます。
彼女はまだまだいい女にはほど遠いけど、
だりあから送られてきた大量の服を
「今の自分には着こなせない。でもいつかこれが似合う女になってみせる」と思うあたりに成長を感じるしね。
早希もユーヤも一皮むけていい女(男)になって、
今ならいいカップルになれる気がします☆
綿矢りささんは現代の若者のあざとさ・毒・冷めてるとこ・・・などを書かせたらうまい作家だと思っていたけど、
この主人公の根本にあるものはそういうのとはちょっと違う気がしました。

「いなか、の、すとーかー」は綿矢りさが書くべき題材なのかな?
ストーカーものにはもっと陰湿で粘っこくて・・・みたいなものを期待するけど、
それに関してこの作品はあっさりしすぎていた気がします。
なぜ砂原さんがここまで執着したのかが不透明なので、
そのへんを深く描いてくれれば印象も違ったかもしれません。
| comments(0) | trackbacks(0) | 10:07 | category:    綿矢りさ |
# ギブ・ミー・ア・チャンス
JUGEMテーマ:小説全般

 ギブ・ミー・ア・チャンス / 荻原浩(文藝春秋)

 評価 ☆☆☆

 

「人生やり直したい!」と思ったこと、ありませんか?
でも、夢を追うのも楽じゃない。
元相撲取りの探偵、相方に逃げられた芸人…
人生の転機を迎えた人々の悲喜こもごもを掬いあげる、
笑いと涙の「再チャレンジ」短編集。




(感想)

頑張ってるのに、なかなかうまくいかない・・・・。
もどかしくて切ない中にも、ニヤリとしてしまうようなエッセンスを加えるのが荻原流。
必死なのは十分伝わってくるけど空回りばかりだから、
応援したくなるようなお話ばかりです。

いちばん面白かったのは、
アマチュアのロックバンドの追っかけだった女性が、
たまたま歌がうまかったばかりにそのバンドのボーカルになり、
メジャーデビューするも売れることはなく、
芸能界で生き残るためにアイドル→演歌歌手と変わっていく「冬燕ひとり旅」です。
このラストがいちばんハジケてて、爽快感がありましたね。

| comments(0) | trackbacks(0) | 09:31 | category:    荻原浩 |
# ここは私たちのいない場所
JUGEMテーマ:小説全般

 ここは私たちのいない場所 / 白石一文(新潮社)

 評価 ☆☆☆☆


芹澤は大手食品メーカーの役員。
順風満帆な会社員人生を送ってきたが、三歳で命を落とした妹を哀しみ、結婚もしていない。
ある日、芹澤は鴨原珠美という元部下と再会し、関係を持つ。
それは珠美の策略であったのだが、
彼女と会う時間は諦観していた芹澤の人生に色彩をもたらし始めた。
喪失を知るすべての人へ・・・光と救いに満ちた最新書き下ろし長編。



(感想)

相変わらずの安定の白石節ですな。
哲学的で小難しいところもあるけど、ブレないところがやっぱ好きだなぁ。
人生や人との絆のことを、頭ん中でグルグルと考えちゃうあたりが私に似てるんだ。
私は好きだけど、
読めば読むほど“好き嫌いがはっきりわかれる作家”という印象が強くなりますねw

釈尊やイエスが肉欲を戒め、聖職者に性交を禁じているのは
「人類の存続を全否定しているから」という解釈にはびっくり仰天したけれど、
主人公の社会での立ち位置が変わると、
それは「子供を作るな」と言っているわけではなく、
むしろ「大人になるな」「可能な限り子供でいなさい」と説いているのではないか?という考えに変化していきます。
独身で子供もいない主人公とは少し違いはあるけれど、
私も結婚はしてるけど子供はいません。
その件に対して負け意識はないし、
それならそういう生き方を謳歌しようという気持ちで生きているけれど、
主人公のこの解釈には救われる気がしました。

淡々としているようで、実は奥が深すぎるほど深いです。
特に主人公と珠美の場面が好き。これぞ大人の恋愛だと思います。
| comments(0) | trackbacks(0) | 12:34 | category:    白石一文 |
# 中野のお父さん
評価:
北村 薫
文藝春秋
¥ 1,512
(2015-09-12)

JUGEMテーマ:小説全般

 中野のお父さん / 北村薫(文藝春秋)

 評価 ☆☆


体育会系な文芸編集者の娘&定年間際の高校国語教師の父が挑むのは、
出版界に秘められた《日常の謎》。
大手出版社の文宝出版を舞台に繰り広げられる8つのミステリーの推理の結末やいかに!



(感想)

出版社に勤める娘が持ち帰った【謎】を、
定年間際の国語教師である父が解き明かすというスタイルのミステリー集。
ミステリーといっても、日常に潜む小さな謎ばかりなので、血生臭さはありません。

うーん、お父さんがまったく悩まずにすぐに解決してしまうのがな〜。
文学的な知識と洞察力があってこその推理なのだけど、
文学的な観点から謎を解かれても私にはちんぷんかんぷんで、
「ああ!そうか!という爽快感が味わえない点で謎解きものとしては物足りなかったです。

謎解きの面白さよりも、父娘のすごくいい関係がほほえましく、
それに関しては読んでいて気持ちがよかったです。
シリーズ化もありそうな予感ですな。
| comments(0) | trackbacks(0) | 13:56 | category:    北村薫 |
# さよなら、ニルヴァーナ
JUGEMテーマ:小説全般

 さよなら、ニルヴァーナ / 窪美澄(文藝春秋)

 評価 ☆☆☆


「少年A」に人生を変えられた人々の物語。
少年犯罪の加害者、被害者遺族、
加害者を崇拝した少女、その運命の環の外にたつ女性作家。
「少年A」は彼らに何をもたらしたのか。



(感想)

昨年、話題になった小説なので読んでみましたが、
神戸で起きたあの事件をモチーフにしたフィクションだそうで、
正直「なぜ今、この題材?」と思ってしまいました。

つまらないわけではないのだけれど、ページをめくる私の手は鈍く、
この分量の小説にしては読むのにえらい時間がかかりました。
おそらく、神戸の事件の関係者の心情を思うと複雑だということもあると思います。

被害者の母がAに憧れる少女と親しくするなどということはありえないし、
どうも少年Aを美化しているような印象を受けるのが気になります。
しかも読んでいるうちに、特殊な環境で育ったAには同情の余地があり、
どうにか誰にも気づかれずに穏やかに暮らしてほしいと願っている自分に気付いた時には愕然としました。
作者が読者にそう思わせるような書き方をしているのは事実。
なぜ、このような書き方で美化するのか不思議でなりません。

これはフィクションではあるけれど、
すべてをそうだと割り切ることはできないし、
Aの平和を願ってしまった自分を肯定はできない。
苦しくて、複雑な感情が読後から数日たった今でも残っています。
でも読者をこういう感情に陥らせるのが作者の狙いなんだろうな〜。
私はまんまとハマったんだと思いますw

 
| comments(0) | trackbacks(0) | 12:06 | category:    窪美澄 |
# 啼かない鳥は空に溺れる
JUGEMテーマ:小説全般

 啼かない鳥は空に溺れる / 唯川恵(幻冬舎)

 評価 ☆☆☆☆


愛人の援助を受けセレブ気取りで暮らす32歳の千遥は、
幼い頃から母の精神的虐待に痛めつけられてきた。
一方、中学生のとき父を亡くした27歳の亜沙子は、
母と二人助け合って暮らしてきた。
そんな二人はそれぞれ結婚を決めるが、
その結婚が、それぞれの“歪んだ”母娘関係をさらに暴走させていく。




(感想)

「母」と「娘」の関係をテーマにした作品です。
一方は、幼いころから母に精神的に虐げられてきたと思っている女性。
もう一方は、母子二人で支えあい、ずっと母と寄り添って生きてきた女性。
この二組の母子が「娘の結婚」という人生の大きな岐路に立った時に、
それまでの関係性をどう変えていくか・・・というお話でした。

母子の仲がうまくいっていた・そうではなかったの違いはありますが、
どちらも自分の意思を優先するよりも先に常に母親の顔色をうかがい、
母に人生を支配されてきたと思っている女性で、
母側も娘側も、良くも悪くも共依存の関係に陥ってるんじゃないかと思えます。
女同士ならではのねっとりした距離感がまるでサイコホラーのようでした。

親が子に干渉し、依存するのはよく考えれば当然のこと。
そこで、いい距離感を保ちながらも
自立していくということが「大人になる」ということなのかもしれない。
また、娘を時に冷静に突き放し、
客観的に見ることができるようになることが「子離れ」ということなのでしょう。

親子であれど、大人になったら「個人」としての関係を築く。
このことの重要さを感じました。
| comments(0) | trackbacks(0) | 01:14 | category:    唯川恵 |
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