歓喜の仔(上)(下) / 天童荒太(幻冬舎)
評価 (上) ☆☆☆ (下) ☆☆☆
愛も夢も奪われた。残されたものは生きのびる意志だけだった。
父は突然消え、母は心に傷を負って植物状態になった。
残された三兄妹は、誰も知らない犯罪に手を染める道を選んだ。
救いは、戦地で生きる心の友。
『永遠の仔』『悼む人』を経て、新たな天童文学がここに。
(感想)
多額の借金を抱えたまま父親が失踪・・・。
残された子供たちは植物状態の母親を劣悪な環境で自宅介護し、
借金を返すためにやくざの下請けで犯罪に手を染める・・・。
なんというか・・・・最後までまったく希望がなくて気が滅入ります。
この「歓喜の仔」というタイトルが皮肉のようのも思えてきて、
この子たちが歓喜に沸くような日は来るのか?と祈るような気持ちで読みました。
唯一の救いは福健さんの作ってくれる食べ物のみ。
そんなに美味いなら私も食べてみたいよ!!
つらすぎて、そんなことで気を紛らわしでもしなきゃ読めませんよ(´ノω;`)
この絶望的な暮らしが長男の誠は音感、次男の正二は色覚、末っ子の香りは嗅覚を失う。
そして誠の中にはパレスチナの過酷な状況で生きる空想上の友・リートがいる。
リートの暮らしを描くことは物語に重厚感を加えるのには効果的かもしれないけど、
物語がとてもいい流れの時に限って、唐突に誠達の世界からリート達の世界に切り替わるのはいけない。
とってもとっても白ける。
あまりの白けっぷりにこの際、リートの部分はなくてもいいのでは?とすら思いました。
最後の最後でタイトルにつながるような展開にはきちんおさまったけど、
そのあまりに芝居じみた展開にえっ?ウソでしょ?と思ってしまいました。申し訳ないけど失笑。
結局、彼らがその後どうなったのかまでは描いていないけど、おそらく子供達も無罪放免では済まないのでしょうね。
だけどずっと違和感のあったタイトルの意味、
そして子供たちが失ったものとその能力・行動にはすべて意味があったということには納得しました。
こういうオチがあることはまったく予想しておらず、
今になって思うと、気づかなかった自分の鈍感さが情けなくすら思えます(-_-;)
誠が「信頼」を大事にすること。
香が仲間たちと培ってきた「むれ」という考え方。この2点、好きです。
シンプルにそこは深く共感しています。