彼が通る不思議なコースを私も / 白石一文(集英社)
評価 ☆☆☆☆
友人がビルから飛び降りようとしている現場で、
霧子は黒ずくめの不思議な男と出会った。
彼の名前は椿林太郎。学習障害児の教育に才能を発揮する、
優秀ですこし変わった小学校教師。
霧子は彼に魅かれていくが、実は彼には知られざる能力があって・・・。
白石さんの作品はここ何冊かはな〜んとなく不発な感じだったけど、
今回のはよかったなぁ。
“彼が通る不思議なコース”とは、“特殊能力”を持っているということ。
その男性(林太郎)と出会い、結婚した女性(霧子)が主人公のお話。
特殊能力の部分でちょっとオカルト入ってると思われそうだけど、
オカルトっぽさはあまり感じませんでした(そこは重要ではないから)。
生きる気持ちを維持するために必要なのは夢や希望なんかじゃない。
他でもない自分自身を好きだっていうこと。
自分自身が大切で大切でたまらないと思えば、
世界で一番大事な自分を失わないために生き続けることができる。
・・・林太郎のこの言葉って、
「夢」だの「希望」だのを語るよりもすっと説得力があって素敵だと思った。
「夢」を抱くことは人生においてとても重要なことだけど、
それを本当に実現できる人はごくわずか。
ほとんどの人は夢を実現できなかったことに対して何の後悔も不満もなく、
社会を支えるために何かしらの職業に就く。
そういう人がいるからこそ、社会はうまく成り立っている。
それ考えると、生きていくにおいて子供の達に伝えるべきことって
こっちなんじゃないかな〜って。
誰かと競争していい学校やいい会社に入ることよりも、
この世でいちばん大事な自分の人生を高める方法はいくらでもあるからね。
ただし、林太郎が何かをしようとするたびに支援の莫大なお金が集まり、
ラストに向かうにつれて林太郎が出世していく姿には拍子抜け。
この金の集まりの良さが「林太郎、うさんくさ!」と感じてしまう。
その部分で引っかかりがあり、彼のやっていることに心から共感することはできないのが残念。