隣り近所のココロ・読書編

本の虫・ともみの読書記録です。
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# あした咲く蕾
評価:
朱川 湊人
文藝春秋
¥ 1,600
(2009-08)
コメント:こころ温まるミステリー

JUGEMテーマ:小説全般 
 ● あした咲く蕾 / 朱川湊人
 ● 文藝春秋
 ● 1600円
 ● 評価 ☆☆☆
美人だけど性格が悪い僕のおばさん。
一筋縄ではいかないへそ曲がりだったけど、でも彼女は正真正銘の天使だった。
なぜなら、自分の命を分け与えることができたから。
そんな特別な力を持っているくせに、人並み以上に情の深い人だから、
彼女はあんな最期を迎えることになったんだ・・・。
表題作を含む全7編を収録のノスタルジック人情ホラー。



(感想)

なつかしい昭和の匂いがしてくるような、朱川さんお得意のノスタルジーに浸れる作品集
成長した主人公が昔、経験した不思議な出来事を回想する形になっていて、
それがなつかしさを倍増させてます。

どのお話にも「死」が絡んでいるけど、人の優しさや絆に包まれているから悲しい気はしない。
むしろあたたかさを感じてしまう。
朱川さんのこういう味付けってほんとうに素敵。安心して読める作家さんですよね。

いちばん好きなのは「虹とのら犬」。
ラストのなんと鮮やかなこと

異色だったのは「カンカン軒怪異譚」。
朱川さんの作品から元気いっぱいな生命力を感じるなんて珍しくない??
中華鍋みたいな道具だって100年も代々大切に使われてきたら、
持ち主の「美味しいものでみんなを元気にしたい」って魂は宿るはず。
おばちゃんが力いっぱい鍋を振るカン!カン!って音が今にも聞こえてきそう

残念なのは「湯呑の月」。
主人公の女の子と、病弱なおばちゃまが、湯呑の中に入れた水の中に
夜空に浮かぶ月を映してお願い事をするというシチュエーションはとても素敵なのに、
その大好きなおばちゃまが主人公の目の前から突然いなくなってしまう理由が
あまりに陳腐で俗っぽかったのにガッカリ。
一気に美しくなくなってしまったーーーー。

ちょっと優しい気持ちに触れたくなったら、朱川さんの本を読めばいいのかもしれませんねっ
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# ヘヴン
評価:
川上 未映子
講談社
¥ 1,470
(2009-09-02)
コメント:これが川上未映子?

JUGEMテーマ:小説全般 
 ● ヘヴン / 川上未映子
 ● 講談社
 ● 1470円
 ● 評価 ☆☆
僕とコジマはこのクラスでいじめを受けている。
しかしある日を境にクラスメートには内緒で、
彼女と秘密のやりとりをするようになった。
僕にはコジマがいる・・・そう思えることで僕の人生ははじめて輝きだした。
永遠に続くと思っていた友情・・・なのに、どうしてみんなは僕たちを放っておいてくれないんだ・・・。
14歳の苛めを正面から描き、生と善悪の意味を問う、著者初の長篇小説。



(感想)

芥川賞受賞作の「乳と卵」は独特な文体とリズム感が印象的で、
いい意味でも悪い意味でも記憶に残る作品だったけど、
今作には正直「これが川上未映子」と思ってしまいました
「乳と卵」に比べて読みやすくなったけど、川上さんの場合はこれがいいこととは思えないなぁ。
彼女素敵なセンスが・・・個性がなくなってしまった

これは単純に中学生のいじめを描いているだけじゃない。
もっと精神に訴えてくるようなメッセージも発しているような気がしつつも、
それが何なのか私にはきちんと伝わってこない。
だからきっとこの本は私の記憶には長く残らない・・・そんな気がする

百瀬という同級生を、あの病院での場面だけでなく、
もっとしっかりと描いてくれたら違っていたかもしれないなぁ。
| comments(0) | trackbacks(1) | 15:45 | category:    川上未映子 |
# よろこびの歌
評価:
宮下 奈都
実業之日本社
¥ 1,365
(2009-10-17)
コメント:ハイロウズファンは必読

JUGEMテーマ:小説全般
 ● よろこびの歌 / 宮下奈都
 ● 実業之日本社
 ● 1365円
 ● 評価 ☆☆☆☆
玲は名の知れたヴァイオリニストの娘。
自らも声楽家を目指し、音大の付属高校へ入ることを目標にしていた。
しかし、目標の高校に落ちてしまい、
数年前にできたばかりの聞いたこともない女子高に通うことになる。 
挫折感から同級生との交わりを拒み、母親へのコンプレックスからも抜け出せない玲。
しかし、校内合唱コンクールを機に、頑なだった玲の心に変化が生まれる――。



(感想)

ファンじゃない人には絶対わからないことですが、
この「よろこびの歌」というタイトルも、各章のタイトルも、
すべてハイロウズの曲のタイトルから借りてきて付けられたらしいです。
作中にもハイロウズが好きな登場人物がでてきたり、きっと著者自身もファンなんでしょうね〜。

ある女子高の、あるクラスの女の子たち。
高校時代って、人生の中で最も輝いているように思われがち。
女子高生は特に難しいことは考えずに、あっけらかんとお気楽に生きてるように思える。
でも、彼女たちにだって悩みはあるんだ。
10代にして人生を諦めている子もいるし、孤独や嫉妬に押しつぶされそうな子もいる。
でも個々がそんな重いものを決して表に出さずに明るくふるまっているから、
女子高生は勘違いされやすい。
そんな悩める女の子たち一人ひとりの心の奥底を丁寧に映し出した作品です。

クラスで孤立していた玲を軸に、合唱によって心を一つにしていく少女たち。
合唱に真剣に向き合うことで自分自身にも素直になっていきます。
みんなで歌いながらも、彼女たちは本当は自分だけの歌を求めてる。
こういう葛藤や諦めは誰しも抱いたことがあるようなものだろうけど、
だからこそリアルに読者の心に響きます

ひとつ、気がかりなのは指揮棒をふる玲だけじゃなく、
のびのびと自分の歌を歌う玲の姿もみたかったってこと・・・。
それだけがおしいなぁ。

けど、瑞々しい素敵なものを書く作家に出あえました
今後にも期待ですな
| comments(0) | trackbacks(0) | 11:12 | category:    宮下奈都 |
# 身の上話
評価:
佐藤正午
光文社
¥ 1,680
(2009-07-18)
コメント:ページをめくる手が止まりません

JUGEMテーマ:小説全般
 ● 身の上話 / 佐藤正午
 ● 光文社
 ● 1680円
 ● 評価 ☆☆☆☆☆
もしあの時、バスに乗っていなければ、私の人生は穏やかに過ぎて行ったはずなのに・・・。
主人公の流され方に、自分は違うと言い切れますか。
人間・人生の不可思議をとことん突きつめる、著者の新たな代表作の誕生。



(感想)

佐藤正午さんっていうと「ありのすさび」とかエッセイのイメージが強い。
小説はいままでいくつか読んではいたけれど、エッセイに比べるとおちるかなと思っていた。
けど、これは面白かったなぁ 
一気に読んでしまいました。

古川ミチルは書店に勤めるどこにでもいるような23歳の女性。
地元で就職し、結婚し、子供を育てる・・・そんな人生を送るだろうということに
何の疑いも抱いていないような平凡な女性です。
そんなミチルが付き合っている彼氏の他に、もう一人の男性とも関係を持ち、
二股をかけるようになったことから彼女の人生は狂い始める。
何が起こるか想像が出来ないので、常に心地よい緊張感の中で読むことができました。

ほんの些細なことがきっかけで、人生はあっという間に違う方向へ行ってしまう。
まるで坂道を下るようあっという間におちていって、
ほんのちょっとの怠惰感や欲やエゴが人生を大きく狂わせることもある。

このお話、ミチルの現在の夫が語るスタイルになっているのだけど、
その夫となる人物はなかなか登場しない。
物語の終盤でやっとその夫となる人物は登場しますが、
夫の語る、彼の身の上話はミチルのそれに負けず劣らない凄まじいもので、
サイドストーリーながらも強烈な役目を果たしてる。
この、彼の身の上話の存在こそが作品を優れたものにしています。
まさか、こういう結末がまっているとは・・・。

佐藤さんの小説の中では群を抜いて面白かったです。
| comments(0) | trackbacks(0) | 14:56 | category:    佐藤正午 |
# 女の子ものがたり 映画ノベライズ版
評価:
丹沢 まなぶ,西原 理恵子:原作
毎日新聞社
¥ 1,050
(2009-07-18)
コメント:いつまでも「女の子」でいられたら・・・

JUGEMテーマ:小説全般 
 ● 女の子ものがたり 映画ノベライズ版 / 丹沢まなぶ(原作・西原理恵子)
 ● 毎日新聞社
 ● 1050円
 ● 評価 ☆☆☆☆
人生が、想像したより重くてつらいと知ったとき、わたしを支えてくれた、あの時の、あの想い。
すべての<女の子>を元気にする、西原理恵子の自伝的ストーリー!
深津絵里主演映画「女の子ものがたり」完全ノベライズ化。



(感想)

西原理恵子さんの自叙伝的作品「女の子ものがたり」の映画版をノベライズ化したもの。
ノベライズってほんと読みやすく書かれてますよね。
軽〜く読めちゃいました

無邪気な少女時代を過ごしてきた女の子たちが、
いつ、どの瞬間に大人になったのかを描くものがたり。

経済的には恵まれず、家庭環境もサイアクで、容姿だって決していい方ではない3人の女の子。
そんな女の子たちにだって輝くような未来を夢に描いていた少女時代がある。
でも、現実は残酷・・・。

大嫌いな父親が亡くなった時、なつみは気づきます。
何も見ず、何も聞かず、何も知ろうとしなかった自分の幼さを・・・。
この日、彼女ははじめて自分が生きる世界を真正面から見た。
このときのなつみの心からの涙は強くしみます

どんなにいい子でも、その子に罪がなくとも、その育ちが故に幸せになれない子もいる。
努力だけではどうしようもないことって、人生たくさんあるもんね。
それに気づき、認め、折り合いをつけるのは、若ければ若いほど難しく残酷なことではある。
でも、それをするのが「大人になる」ってことなんだろうなぁ。
ここまでのつらく過酷なものではないにしても、
誰もが彼女たちの苦い思い出に近い感情を抱いたことがあるはず。
ついつい自分の過去を当てはめて、考えてしまいました。
この作品は決して「かんばれば、きっと夢はかなうよ」なんて言わない。
そこが悲しいけどリアルなんだよね。

「みさちゃんも、きいちゃんも大嫌い」

この「大嫌い」には秘められた本当の意味がある。
少女の胸の中できちんと整理し、
正しい意味で理解するのはあまりに難しいことかもしれないけどね。
| comments(0) | trackbacks(0) | 12:03 | category: 作家名 た行 |
# パラドックス13
評価:
東野 圭吾
毎日新聞社
¥ 1,785
(2009-04-15)
コメント:何も東野圭吾が書くことないような・・・

JUGEMテーマ:小説全般 
 ● パラドックス13 / 東野圭吾
 ● 毎日新聞社
 ● 1785円
 ● 評価 ☆☆☆
一般市民には知らされていないが、
3月13日、13時13分からの13秒間は地球にとって運命の時間になるという。
しかし、何が起こるかは論理数学的に予測不可能。
警察関係者には具体的なことは何も知らされずに、
ただその時間帯には危険な行動は慎むようにとの謎の指示は出されていた。
そしてその時間が来て・・・・。
冬樹の目の前には想像を絶する過酷な世界が出現していた。
なぜ我々だけがここにいるのか。生き延びるにはどうしたらいいのか。
論理と倫理の狭間で繰り広げられる究極の人間ドラマ。



(感想)

何を書いてもベストセラーに出来ちゃう当代きっての人気作家。
グイグイ引き込まれて、さすが東野さんと思いつつも、
何もこの漂流教室的なテーマを、あえて東野さんがやる必要があるのかなと思ってしまいました。

パニックものではあるけれど、
異常事態の恐ろしさを描いてるというよりは、
その時の人間の行動や判断の仕方を描く人間ドラマと見た方がいいかもしれません。
現実社会での善悪が通用しなくなる事態。
こうなってしまったときに、自分には何ができるのか?
何を優先するのか?
何が正しいのか?
その答えはその状況に置かれてみなければわからないけれど、
少なくともそんな非常事態にも人間らしい選択をできる人間でありたい・・・。
そんな風に考えながら読んでしまいます。

こういう物語ではお約束で、
誰かがアレを盗んだり、あんな卑劣なことをやっちゃったりするもの(笑)
この作品でも例外なくそれは行われ、
さらに私が「あれをやるのはアイツだろうな」と思っちゃた人物がそのまんま悪事を働いていた。
これにはウケたなぁ。
| comments(0) | trackbacks(0) | 16:24 | category:    東野圭吾 |
# おさがしの本は
評価:
門井 慶喜
光文社
¥ 1,680
(2009-07-18)
コメント:ちょっとマニアックすぎるかな・・・

JUGEMテーマ:小説全般
 ● おさがしの本は / 門井慶喜
 ● 光文社
 ● 1680円
 ● 評価 ☆☆
簡単には、みつかりません。
図書館とは迷宮・・・ここで一冊の本を探すということは果てしなく深いのです。
でも、ご安心ください。
優秀(でも、生まじめでカタブツ)な図書館員が、お手伝いいたしますので、
ぜひレファレンス・カウンターにお越しください・・・・。
図書館を舞台にした探書ミステリー。



(感想)

図書館を舞台にした本にまつわるミステリー。
こういうテーマの作品って多い気がする
しかも、本好きってこういう「本」とか「図書館」とかに異常に弱い
今回もまんまと釣られちゃったかんじ
 
図書館不要説を唱える副館長との戦いをベースにしつつ、
各章ごとに1冊の本を探すというスタイル。
けど、その肝心の本を見つけるまでの謎ときの部分が専門的すぎて、
読者の興味をそそるようなものではないのがこの本をつまらなくしている要因。
読み進めながら主人公たちと一緒に答えを導き出していく面白さが味わえないんですよね。
だから答えが見つかったところで解決した気持ち良さもない。
「ふーん、そうなんだ」で終わっちゃう。
完全に読者はおいてけぼり・・・

主人公の市議会での発言の一言もちょっとひっかかった。
「ただただ買うためのお金がもったいないというだけの理由で
 人気作家の新作をごっそり借り出す老人もいます。個人的には情けなく思う。」
これってどうなんだろう。何が情けないんだろう。「ごっそり」って部分か?
何かを調査したり、大学のレポートを書くためだけに図書館が存在するのではなく、
市の図書館なんて難しいこと抜きに、
あくまで市民の娯楽のために存在しててもいいものだと思う。
私もただただお金がもったいないから、
新刊はなるべく購入せずに図書館のお世話になっている人間なので、
もしかしたら図書館員の人たちの中には私を「情けない人」って思っている人もいるかもしれないのかぁ。

こんなことを情けなく思われるんだったら、図書館っていったい何なんでしょうね???
ほんとにほんとに図書館の意義を考えさせられる作品ですわ
| comments(0) | trackbacks(0) | 14:44 | category: 作家名 か行 |
# 薄暮
評価:
篠田 節子
日本経済新聞出版社
¥ 1,890
(2009-07-01)
コメント:地味ながらも読ませる力作

JUGEMテーマ:小説全般
 ● 薄暮 / 篠田節子
 ● 日本経済新聞出版社
 ● 1890円
 ● 評価 ☆☆☆☆
田舎のほぼ無名に近い亡き画家の封印されていた一枚の絵
それが雑誌に取り上げられたことで「閉じられた天才画家」は妻の手を離れ、
郷土の人々の欲望と疑心の渦に巻き込まれる。
著者の新境地を示す傑作長編。
 


(感想)

地味でずっしりと重い。
ずーっと嫌な気持ちで読んでいなければならないくらい、人の感情の醜い部分を描いている。
でも読ませる力のある不思議な作品。
小説としては退屈なかんじではあるんですよ。
あくまで人間ドラマで、ミステリーではないんだけど、
どこに真実があるのか早く知りたくて、
ミステリーを読んでいるときのような中毒症状に襲われて読む手が止まりませんでした
退屈なのに、どうしてこんなに読ませるんだろう・・・
なんだかこういう作品こそ長く記憶に残るような気がします。

すでに亡くなっている田舎の無名画家に急にスポットが当てられたことから起こる騒動。
画家の才能を強く信じてきた妻。
絵を購入し、支援もしてきた郷土の支援者たち・・・。
それぞれの思惑が交錯し、とんでもない方向へ転がっていく様を
巻き込まれた雑誌編集者の目を通して描いています。

人間同士の愛情はもちろんのこと、
宗教観・郷土愛・芸術愛・・・さまざまな形の感情が描かれている。
しかもそれは激しくもあり、醜くもあり、欲や嫉妬にまみれながらもリアル。
このへんの丁寧なうまさはさすが篠田さんと言わざるを得ません。

自分の認めたものを信じ抜き、守り抜こうとする自我の薄気味悪さ。
こういう感情って自分の中におさめておけばいいのだけど、
外に出すと危険なものにもなることがありますよね。

人々の醜い感情にまみれながらの唯一の救いは、
新潟ののどかで美しい風景を想像すると癒されることでした。
| comments(0) | trackbacks(0) | 10:50 | category:    篠田節子 |
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