● 恋文の技術/森見登美彦
● ポプラ社
● 1575円
● 評価 ☆☆☆☆
京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生が一人。
無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。
友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ次々と手紙を書いていく日々だが、
本当に気持ちを伝えたい人には、思うような手紙は書けなくて・・・。
(感想)
友人、先輩、妹など遠く離れた人たちに手紙を書きまくる主人公。
この本は最後までずーっと書簡の形式です。
往復書簡の形ではなく、あくまで主人公が書いた一方的な手紙のみという独特なもの。
でも、それぞれの人間関係や個性まで鮮やかに読み取れるからすごい。
読み進めるごとに各エピソードがどんどんつながり、起こった出来事の全貌が見えてくる。
パズルがきれいに埋まっていくようで面白い趣向でした。
今の日本からはなくなったと思われる“文通”を題材とするところも、
古き良き懐かしチックな香りのする森見ワールドにピッタリです
私の大好きな“パンツ総番長”の話題が出てきたり、
森見ワールドを愛する人には嬉しい小ネタもたくさん散りばめられています
阿呆ばっかで、どっかヘンで、・・・でも、このゆる〜いバカバカしさがいいんだよな。
そもそも主人公は小学生のころ、文通するのが大好きだった。
なぜそんなにも文通に夢中になったのか、彼はこう考えている。
“手紙を書いている間、ポストまで歩いていく道中、返信が来るまで長い間、
それを含めて「手紙を書く」ということだったから”、と。
実は私もかつては文通ガールでした。
よく、雑誌の文通コーナーに載ってる人に手紙を出したりしたもんですよ。
メールとは違う良さがあるんですよね。
毎日郵便受けをのぞいて、いつ届くかいつ届くかと手紙を待つという行為は
もどかしくも本当にワクワクするものだったなぁ
あのころを思い出して、もう一度知らない誰かと文通してみたい気持ちがよみがえってきました。
(でも、今の世の中でそんなことをしたいと思う人はもういないんだろうなぁ)
# 恋文の技術
2009.04.28 Tuesday
JUGEMテーマ:小説全般
# 空色勾玉
2009.04.22 Wednesday
JUGEMテーマ:小説全般
● 空色勾玉/荻原規子● 徳間書店
● 1700円
● 評価 ☆☆☆☆
村娘・狭也の平和な日々は祭りの晩に破られた。
自分は平凡な村娘ではなく闇の一族の巫女「水の乙女」であることを告げられたのだ。
あこがれの月代王へ助けを求め、彼に仕えることとなったが、
そこで縛められて夢を見ていた輝の末子稚羽矢との出会いが、狭也を不思議な運命へと導く…。神々が地上を歩いていた古代日本、光と闇がせめぎあう戦乱の世を舞台に織り上げられたジャパニーズファンタジー。
(感想)
著者は日本のファンタジーをずっと読みたいと思っていて、
≪自分が読みたいものは、人に期待せずに自分で書けばいいのだ≫という思いで書いたそうです。
日本の古典を美しく描いたファンタジーで、情景が鮮やかに目に浮かびます。
この国が長く大切に語り継いでいるものの美しさにすっかり酔ってしまいました。
やはり土台が素晴らしいから重厚で洗練されている。
日本の古典は苦手だった私にも難しくなく読めました。
闇の一族の巫女「水の乙女」として生まれた狭也。
神殿へ閉じ込められてずっと夢を見ていた輝の末子・稚羽矢。
光と闇に生まれた二人の運命の出会いと恋。
二人は孤独で居場所を求め、その過酷な運命を必死で立ち向かっていきます。
自分の無力さを嘆き、どう生きるべきかを模索し、やがては自分たちの手で道を切り開いていく二人。
神々を描く古典とは言っても、若い二人の成長物語にも思えます。
月代王、照日王、鳥彦・・・脇を飾る登場人物もそれぞれで生き生きと魅力的です。
ラストに近づくにつれ二人の思いはどんどん高まり興奮を抑えきれずに読みました。
日本にもこんなに素晴らしいファンタジーがあったんですね。
# 女神記
2009.04.16 Thursday
評価:
桐野 夏生 角川グループパブリッシング ¥ 1,470 (2008-11-29) コメント:神であることの苦しみ |
JUGEMテーマ:小説全般
●女神記/桐野夏生●角川書店
●1470円
●評価 ☆☆☆☆☆
遥か南の海蛇の島、二人の仲の良い姉妹がいた。
しかし姉は大巫女を継ぎ、妹は運命に逆らい、掟を破った。
16歳で死んだ妹は、地下神殿で黄泉の国の女王イザナミに仕えることになる。
物語の鬼神が描く、血と贖いの日本神話!。
(感想)
日本の神話は正直まったく興味がなかったんだけど、これは読みやすく、面白かったー
神話というだけで拒否反応起しちゃう人もいるだろうけど、
女でありながら神でもあるイザナミの苦しみ、人間であるナミマやマヒトの嫉妬、欲・・・・・
描かれている感情は桐野夏生が得意とする世界観そのものです。
神様ってすべてに平等で愛にあふれている存在かと思いきや、
人間以上に人間的な感情をもっておられるかのように描かれている。
こんなこと言ったらおこがましいかもしれないけど、
女としてイザナミの苦しみと葛藤は痛いほどに理解できました。
神と神の話であるけれど、根本的には現代の私達となんら変わらない男と女の話なんです。
マヒトやイザナキ・・・男はズルい。
この世の創造がはじまったころから男と女には格差があった。
「陽」が存在するならば、必ず「陰」もある。この本ではたしかに男が陽で女が陰。
神は真の神であると同時に、真の破壊者でもある。
最後に救いを求めたイザナキを冷たく切り捨てたイザナミ。
神であっても、人間であっても、やはり女の情念は恐ろしく深い。
偶然なのだけど、この次に読んでいる本も日本の神話を題材にしたものなんです。
この本を読むことが、思いがけず予習になりました
# 架空の球を追う
2009.04.14 Tuesday
JUGEMテーマ:小説全般
●架空の球を追う/森絵都●文藝春秋
●1400円
●評価 ☆☆☆
ふとした光景から人生の可笑しさを巧妙にとらえる森絵都マジック。
たとえばドバイのホテルで、たとえばスーパーマーケットで、
たとえば草野球のグラウンドで、たとえばある街角で・・・・。
人生の機微をユーモラスに描きだすとっておきの11篇。
(感想)
本のタイトルになっている「架空の球を追う」なんて7ページしかないし、
11編すべて完成度は高く、はずれはないんだけど、その短さゆえに読んだ後の充実感は少ないです。
“もうちょっと読みたかった”という思いがどうしてもつきまといます。
だから評価の星はあえて低くして3つ。
生活のなかでのちょっとした瞬間を切り取った短編集。
その瞬間のチョイスが素晴らしくうまい!
女性ならではの視点と観点で、感じるものが多かったなぁ。
なかでも秀逸なのは「パパイヤと五家宝」。
高級スーパーマーケットへ非日常のファンタジーを求めにやってきた主人公。
2000円の高級マンゴーをなんの躊躇もせずにかごの中に入れる優雅マダムが目に止まり、
彼女がかごの中に入れるものとまったく同じものを自分もどんどん入れていく。
自分が本当に食べたいと思う食品を見つけて我に返ったのだけど、
最後のレジの会計の時に・・・・サイコーです
このお話に限らず、「ドバイ@建設中」も「二人姉妹」も「架空の球を追う」もラストの落とし方がうまい。
なのに・・・もったいない。
こんな短い短編じゃなく、しっかりじっくり長編で読みたかったよ〜。
なぜだか知らないけれど、本についてるしおりがすごーく短かった
使いにくい・・・なんの意味があるのだろうか?
# パパママムスメの10日間
2009.04.10 Friday
JUGEMテーマ:小説全般
●パパママムスメの10日間/五十嵐貴久●朝日新聞出版
●1575円
●評価 ☆☆☆☆
列車事故でパパと小梅の心が入れ替わり、無事もとに戻ってから2年が過ぎた。
小梅が大学に合格し入学式を迎えたその日、落雷に遭い再び悪夢がっ
しかも今回はパパ→ママ、ママ→小梅、小梅→パパと3人が入れ替わっちゃった
3人はどうなる
そして、入れ替わったからこそ気づく家族の大切さとは・・・・・。
(感想)
タイトルそのままですね。
「パパとムスメの七日間」の続編で、今度はなんとパパ、ママ、ムスメの3人が入れ替わり
期間も10日に増えました。
パパがママに、ママは小梅に、小梅は前回同様パパになっちゃいます。
誰が誰になったのか、一人増えただけでも読者は慣れるまでは大変です。
とりあえず最初は簡単なメモを準備して、それを確認しつつ読んだ方がいいですよ(笑)
(現に私はメモ片手に読みました)
今回の主役は何と言っても“入れ替わり初体験”のママ
すっかり“入れ替わりのプロ”と化しているパパや小梅と違って、この状況をそう簡単には受け入れられません。
しかも入れ替わったのは小梅の大学の入学式当日だから大変
小梅すら未知の領域である大学生活になじめるはずはなく、
慣れないハンバーガー屋でのバイト、そしてなかなか会えないけど静かに続くケンタ先輩の恋まであり・・・。
それでも、かわいい娘の評判を落としたくない一心で一生懸命に日々をこなすママに
笑わせてもらいつつも、娘への深い愛情を感じます
前作に比べてごちゃごちゃしてるし、
入れ替わりによるドタバタの面白さにも読者である私達自身が慣れてしまった感はあるけど、
やっぱり笑える作品なのにはかわりありません。
ドラマの続編も制作されるといいな〜。
舘ひろしさんのあの演技がまた観たいっ
# 元職員
2009.04.07 Tuesday
JUGEMテーマ:小説全般
●元職員/吉田修一●1365円
●評価 ☆☆☆
栃木県の公社職員・片桐は、タイのバンコクを訪れる。
そこで武志という若い男に出会い、ミントと名乗る美しい娼婦を紹介される。
娼婦、妻、友人、嘘、欲・・・すべてが重なり合い、すれ違う。
ある秘密を抱えた男がバンコクの夜に見たものとは!?
(感想)
薄いので、あっという間に読めちゃいました。
旅行でタイを訪れた片桐という男が、
バンコクの空港に降りたってから、一週間後に旅立つまでを描きます。
「さよなら渓谷」でも感じたけれど、実際にあった事件を下敷きにしてるような?
アニータ事件を思い出したのは私だけじゃないはず・・・。
はじめはたったの514円。
バレないのが不運だったというか、その金額はやがてとんでもない金額に・・・。
ささいなことから人間はこんなに落ちてしまうものなのだろうか。
人間の弱さを見せつけられる。人ってこういう風に転落していくのね・・・。
周囲を騙す。でも、それは自分自身を騙すことでもある。
だから本音でぶつかってくる者には反抗心を抱く。
いつしか、およそ本来の自分とは似ても似つかない虚栄心を持ち始めて、
気が付いた時には取り返しのつかないことになっている。あー、お金は怖い。
主人公も武志もミントもごまかして生きている。
彼らがときおり見せる怒りは自分自身に対するものでもある。
みんな、ごまかしながらバンコクでかりそめの時間を過ごしているだけ。
最後の主人公のキレっぷりにはポカーン
結局のところ、この人はどうしたいんだろう。この旅行で何を得たんだろう。
「だから、ナニ?」・・・これがこの本を読んだ素直な感想です。
1300円の価値、あるのかどうか・・・
# 三月の招待状
2009.04.06 Monday
JUGEMテーマ:小説全般
●三月の招待状/角田光代●集英社
●1470円
●評価 ☆☆☆
3月、大学時代をともに過ごした正道・裕美子夫妻から「離婚パーティ」の招待状が届く。
4月にそのふざけたパーティに出席し、
5月には絵にかいたような専業主婦だった麻美が宇田男と不倫を始めた。
動揺、苛立ち、虚しさ、自分を取り戻そうとするのだが、揺れるこころが波紋をなげる。
それぞれが見つける新たな出発を描いた長編小説。
(感想)
30代にもなれば結婚し、子供が出来れば親としての役割もうまれ、
いつまでも若い頃のように自分中心ではいられなくなってしまう。
しかし、このお話に出てくる人たちにはそのような「変化」が訪れていない。
変化がないままに34歳になり、まわりは少しづつ変化していく中、
過去に抱いた青春の憧れを取り戻しつつ、自分だけの「変化」を成し遂げていく人たちの物語です。
私と同世代の5人。
なんかどの人もすごーくイタい人たちだった
何かにつけて理由をつけて集まるんだけど、本当は理由なんてどうでもいいの。
ただみんなで集まってわちゃわちゃと騒いでいたいだけ。
(この「わちゃわちゃ」という表現は絶妙にうまい)
いつまでも青春時代の延長。
友達なんていいながらも、心の中では趣味悪い、バッカみたいと見下してる。
でも、輝いていたあの頃を手放したくなくて、今も続ける友人関係。
彼らの人間関係は滑稽にすら思えました。
客観的な立場から冷めた目で見ている正道の恋人・遥香の心情はわかりすぎるほどわかります。
いつまでも宇田男なんかにこだわっている充留もいいかげんにしてほしいし、
唯一まともな人に思えた裕美子は実は親から経済的に独立していないし〜〜〜。
麻美は不倫をし、数か月家を離れた。
冒険の末の麻美の結論は「私達って、本来、圧倒的に暇なのね。」
麻美の言う“暇を引き受ける”ということは、つまりは大人になるということなんだろうなぁ。
たぶん、読者からいちばん嫌われるのは、この麻美なんだろうけど、
私には彼女の気持ちがいちばん理解できた。
だって考えてみると私にもキラキラと輝くような青春時代の思い出がないんだもの。
今の生活に何も不満はないけれど、私も彼女と同じく子供がいない。
もしかしたら私も何かのきっかけで彼女みたく冒険してみたくなることもあったりして・・・・・・笑。
どの登場人物もみんないやなところがあった。全員きらい。
でも、そんなところに人間臭さも感じてしまう。
嫌いだけどなんとなくわかる。そんなお話でした。
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