# サラバ!(上)(下)
2015.09.28 Monday
JUGEMテーマ:小説全般
サラバ!(上)(下) / 西加奈子(小学館)
評価 上 ☆☆☆☆ 下 ☆☆☆☆
1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。
父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。
イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、
今度はエジプトへ向かう。
後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに――。
(感想)
西加奈子さんの直木賞受賞作。
西さんがこんなに長い長編を書いたのも、
おそらく今回がはじめてではないでしょうか。
いろんな意味で西さんのターニングポイントになったであろう作品です。
主人公は圷歩(あくつ あゆむ)という男の子。
父の仕事の関係で海外生活が長く、
変わり者の姉がいたことで風変わりな少年時代を送るが、
あまりに特殊な環境で育ったせいか何事に対しても“受け身”で考えてしまうところがあります。
そんな歩が成長し、何かを為すことの重さや絶望を経験し、
自分の足で歩き、自己を築いていこうとする再生の物語です。
おそらく、子供のころを海外で過ごした西さん自身の体験や感情も投影されているのでしょうね。
それにしても・・・・受け身体勢でありながらもそこそこ人生をうまく渡ってきた主人公の道がキラキラした道ではなく、
ななめにそれていくきっかけになる出来事がまさかあんなこととは・・・。
その物悲しさ・おかしみたるやww
だけど、よーく考えてみると
これこそが「人生」というものなんじゃなかな〜としみじみ感じちゃったんですよね。
決してきれいなものでもないし、他人から見ればばかばかしいかもしれない。
でも、その人にとっては唯一のもの。こんなもので世の中ってできているんですね。
このくらいの長編だと、歴史物やミステリー物が多いような気がしますが、
これは一人の少年が大人になるまでをただスローテンポで綴っています。
だから余計に長く感じた人もいるのかもしれませんが、これは歩の人生の、
取るに足らないようなエピソードも散りばめてるからこそのこの分量です。
人生なんて大半がどーでもいいような出来事でできてるわけだし、
そういう意味で考えるとこの「無駄に長いかんじ」にも十分意味がある。
そして、ラストに近づくとわかることなのですが、
実はこの小説、歩が「はじめて書いた小説」という設定でもあるんですよね。
だから、たどたどしく、無駄が多い。つまり、処女作だから決してうますぎてもいけないのです。
この文章の書き方はおそらくそのへんを計算されたもののはずです。
緊迫感があり、手に汗握るエンターテインメント作ではありませんが、
最近の直木賞にしてはライトな感覚で読めると思います。