# 富士日記(上)
2008.03.13 Thursday
富士日記〈上〉 (中公文庫)
武田 百合子
JUGEMテーマ:文庫
●富士日記(上)/武田百合子
●中公文庫
●980円
●評価 ☆☆☆☆☆
夫で作家の武田泰淳、娘の花(現在は写真家として活躍している)と
ともに富士山麓で過ごした13年間の記録。
無垢な心でとらえたユーモアあふれる文体で克明に写し出し、
思索的文学者と天性の芸術家の組み合わせが面白いユニークな日記。
(感想)
先日、小川洋子さんのラジオ番組で紹介されてました。
本上まなみさんも以前この本のことを書いていて、
それを読んだ時からいつか読みたいと思っていました。
武田泰淳・百合子夫妻は普段は都会で暮らしているけれど、
たまに富士山麓の別荘に遊びに来ます。
その時の様子を13年間も記録したもので、
上巻では昭和39年7月から41年の9月までです。
出版するために書かれたものではなく、
あくまで日々の記録として書かれたものだそうです。
心情を切々と綴るのではなく、
富士での生活の様子(食べた物とか買い物リスト、周囲の人と話したこと)をただ克明に記録し、
たまに百合子さんはなく、ご主人や娘さんが書いている部分があるのも微笑ましい
日々、ただ綴られる家族の様子。
何事もない平凡な日々の記録にこんなにも幸福を感じられるなんて
食事だってたいしたものは食べてないし、
うどんとトーストを一緒に食べたり、
すごく食べ合わせが変な日もある。
けど、その気ままさ、おおらかさが妙に心地よくて、
その辺にこの作品の人気の秘密があるんだろうなぁと感じる。
百合子さんはさっぱりしてて気持ちのいい人。
よく食べて、面倒見が良くて、料理上手、
素晴らしい観察眼、そしてユーモアもある。
百合子さんの人間性にいつしか読者はひかれてしまいます。
洗って干していた桜エビを乾かしているうちに食べたくなって
結局、食べてしまった百合子さんが大好きです
41年9月7日の夫婦喧嘩の時の百合子さんもサイコーです
家の環境整備など修理の人がたびたび訪れているし、
いちいちスバルラインのゲートをお金を払って通過しないとどこにも行けない。
富士山麓での生活は決して住みやすい場所ではない。
でも、周囲の人々と仲良く助け合って、
家族だけでなくみんなと生きていることの楽しさが伝わってくる。
劇的な展開なんかまったくないし、
どんどんページを読み進めたいというわけでもない。
「面白い」とかそういうんじゃなくて「なーんか好き」。
心の奥にずっと大切に抱いていたいような本です