# どこから行っても遠い町
2009.05.25 Monday
JUGEMテーマ:小説全般
● どこから行っても遠い町 / 川上弘美● 新潮社
● 1575円
● 評価 ☆☆☆
家族ではない二人の男が奇妙に同居する魚屋
女にだらしのない父親と次々と入れ替わる父親の恋人を見て大人になっていく少年、
裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房・・・
東京の小さな町の商店街を舞台に、
そこに生きる人々のひそやかなあやうさと幸福を描く連作短編集。
(感想)
近くにありそうで、でもきっとどこにもない・・・そんな商店街。
商店街にある魚屋さん、肉屋さん、八百屋さん、小料理屋さん、
そしてそこを利用する買い物客の人たち・・・。
「あけみ」さんみたいな女の人はどこの町にも必ずいそう(笑)
“ロマン”のようなお店も日本中に数え消えないほどあるだろう。
でも、ひとつの町を形作る小さな要素の一つ一つにはそれぞれの物語があり、どれも違う。
何気ない表情で魚の切り身を買っていく平凡そうな人にもその人だけのストーリーがあるのだ。
そんな粒のかけらを切り取った作品です。
特別、印象に残るようなエピソードの詰まった作品集ではない。
でも、それが平凡な人の人生を素朴に切り取っているような気がして逆にリアリティありました。
最後の1ページが妙に沁みる〜
「あたしの人生、捨てたものじゃなかったです。」
何気なくても、こんな風に感じられる感性を持っていたい。
私の住んでいる町にも、私が子供の頃には確かに活気があり賑わう商店街がありました。
毎日、夕方になると買い物に出かけ、商店街で買えないものはないほどだったのに、
今、その商店街はすっかりシャッター通りとなって寂びれ、
交通手段がない老人たちが利用するだけとなってます。
だからこの本のように魚は魚屋で、肉は肉屋で、野菜は八百屋で買い、
買い物によって町の人たちと親しくなっていくような暮らしが私にはとってもうらやましい
古き良き、そして、なくしたくない日本の風景を描いた作品とも言えますね