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JUGEMテーマ:小説全般
● 燕は戻ってこない / 桐野夏生(集英社)
● 個人的な評価 ☆☆☆☆
憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、
非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。
「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、
ためらいながらも登録してみると、
国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられて・・・。
(感想)
現代女性のリアルな貧困を描く、これそ桐野夏生ワールド。
グイグイと引き込まれ、面白かったです。
とにかく人間の身勝手さを見せつけられる作品。
基が大奥のように多くの遺伝子を残してみたいと思うのは
彼のように何かの才能に秀でた男であれは本能的にあり得ることだと思うし、
千味子が自分と血のつながった誰かに遺産を残したいというのも至極当然の感情だと思う。
リキも悠子も基も言うことがコロコロ変わる。
でもまぁ、これほどのことをしようとしているんだから、
迷いや葛藤が出てくるのは人間として当然で、逆にそれが人間らしく思える。
それも仕方ない。
・・・・でもさぁ、それにしたってどの登場人物も命を軽く見すぎじゃあないですかね。
自分がどうしたいかだけで、
これから生まれてくる「命」、その子の感情まで考えてる人が誰もいない。
そこに「こりゃ生まれてからも相当揉めるんだろうな」と思わざるを得ませんね。
最初は悠子がいちばんまともに思えたけど、最終的にはこの人がいちばん嫌いでした。
唯一の救いは、最後の最後でリキがお金や損得ではなく、
自分の感情のままに人生を選ぶことができたことかな。
まー、この選択によってこの人の今後の人生かなりのハードモードになることは決定だし、
このあと相当揉めるのはわかり切ってはいるんだけど、
心の開放をできたということに関しては、同じ女性としてすっきりしました。