JUGEMテーマ:小説全般
● なれのはて / 加藤シゲアキ(講談社)
● 個人的な評価 ☆☆☆☆☆
ある事件をきっかけに報道局からイベント事業部に異動することになったテレビ局員・守谷京斗は、異動先で出会った吾妻李久美から、祖母に譲り受けた作者不明の不思議な絵を使って「たった一枚の展覧会」を企画したいと相談を受ける。
しかし、絵の裏には「ISAMU INOMATA」と署名があるだけで画家の素性は一切わからない。
二人が謎の画家の正体を探り始めると、秋田のある一族が、暗い水の中に沈めた業に繋がっていた。
(感想)
第170回直木賞候補作。
加藤シゲアキさん、読むたびに力をつけていると感じます。
ご結婚もされたことだし、もう本気で専業作家になっていいレベル。
こんなに書ける人だってもっと一般に知られるべきです。
無名の画家が書いた一枚の絵から明らかになっていくある家族。
戦時下から現在という長い歴史のなかにおいて、石油採掘・空襲・著作権・発達障害・報道の在り方などあらゆるテーマを折り込みんでますが、だからといって無理な盛り込み方ではなく、すべてしっかりと回収されているのが素晴らしい。
石油や絵の具のどろりとした質感と濃厚な匂いがリアルに漂ってきそうな重厚感があります。
ミステリーでありながら、人間もしっかり描いているし、結末には少し涙ぐんでしまいました。
書きすぎない潔い終わり方が好きです。
ですが・・・☆は5つつけたものの、気になったのはタイトルの「なれのはて」。
あまりに唐突にこの単語がでてきて、急にタイトルの意味が回収されたので、とってつけたような気がして興ざめ感がありました。
いつか必ず直木賞がとれる作家です。今後も注目します。