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たった、それだけ / 宮下奈都(双葉社)
個人的な評価 ☆☆☆
贈賄の罪が発覚する前に、望月正幸を浮気相手の女性社員が逃がす。
彼を告発したするのは自分自身だというのに―。
正幸が失踪して、残された妻、ひとり娘、姉にたちまち試練の奔流が押し寄せる。
正幸はどういう人間だったのか。私は何ができたか…。
それぞれの視点で語られる彼女たちの内省と一歩前に踏み出そうとする“変化”とは。
(感想)
一人の男性の失踪を軸に、
その関係者が各章で入れ替わって語り手となるスタイルの連作短編集です。
一つの出来事をあらゆる角度から見られるこういうスタイルの作品はわりと好き。
テンポもよく、サクサクと読めました。
「たった、それだけ」のことが人生を大きく狂わせることは多々ある。
いや、もしかしたら人生なんて無数の「たった、それだけ」によってできていると言っても過言ではない。
「たったそれだけの勇気」「たったそれだけの後悔」・・・
些細な事柄がその人の人生の影や光となる。
そう考えると、日常の些細な出来事一つ一つに意味を感じ、
何気ないことも大事にかみしめて生きなきゃと思えてきます。
最後の第6話が秀逸。
後半へ行けば行くほどじわじわと深みが増していきます。
本当なら失踪した望月正幸が語り手となる章があればわかりやすいんだけど、
ないのがミソなんだよな〜。
著者のあえて書かないという選択は、読者の想像力を揺さぶるという意味で大正解だと思います。